安斎都と思い出の鍵 その2

○これまでのあらすじ


「分かりました、この依頼引き受けましょう。…ところでこれ、具体的にどうやって使うんですか?」
「どう、とは上手くいえないんだが…ちょっと休憩してるときなんかに見えるんだよ。起きながら見てる夢みたいなもんだ」
「ふむふむ…持ってるだけで効果を及ぼす、と。なるほど…」
「使い方なんて聞いてどうすんだ。使ってみる気か?」
「当然じゃないですか、『見たことがない記憶』を見られるだなんておかしいですよ!そもそもそれが本当にあったことかどうかすら疑わしいですし」
「あっお前まだ俺の話が妄想や妄言だと思ってるな?ならお前も一度見てみればいいさ」
Pさんはそう言い残すと休憩所から去っていった。後に残されたのは私一人。
「思い出の鍵、ねえ…」
預かった鍵束を弄ぶ。見てもいない記憶を見られる鍵。もし本当なら夢のような話だ。


夢。

そう、夢。

これは夢のような話だ。


…対峙する二人の人影が見える。追う者と追われる者。
赤い髪が月明かりに照らされて浮かび上がる。…あれは私だ。じゃあ私が追っているのは誰?
大きな月を背後に、風にはためくマントと茶色の髪。その顔は逆光になって見えない。
彼女は私に何か語りかけると、軽い身のこなしで屋根から屋根へと飛び移っていく。
私はそれを懸命に追うけれど、追いつくどころか引き離されていき、やがて彼女を見失ってしまう…



部屋に響いた金属音で我に返った。足元には鍵が転がっている。
息を吐きながら、ゆっくりとした動作でそれを拾い上げる。
見たことのない思い出を見ると言うから、子供の頃の記憶でも見るだろうと思っていたが違った。
妄想と笑い飛ばすにはリアリティがありすぎた。髪を撫でていく夜風の感覚さえはっきりと思い出せる。
この件は深入りしてはいけないような気がする…。