安斎都と思い出の鍵 その1

ついったーに投げたやつのまとめ。


「私の名前は安斎都。デビューしたばかりの探偵アイドルです」
「アイドルであり、同時に探偵でもある私のところには、様々な事件が飛び込んできます」
「今回は、その中でも特に奇妙な事件のお話をしましょう…」

「これを調べて欲しい」
目の前に置かれたのは何かの鍵束。
「これは…鍵束ですね」
「そうだ」
答えたのはプロデューサー。私をこの事務所に連れてきた当の本人です。
「これだけでは調べるも何も…一体何の鍵なんです?」
「これはな、思い出の鍵なんだ」
「思い出の鍵…?蘭子ちゃん風の言い回しですか?」
「いや、確かにこれは『思い出の鍵』なんだ。そうとしか言えない」
「ふうん…なんですか、これを使うと忘れた記憶を思い出せるとでも言うんですか?」
「当たらずと言えども遠からずだな」
「…そんな馬鹿な」
「馬鹿な話だと思うだろう。だが本当だ。俺はこの鍵で見たこともない思い出を見た。一度や二度じゃない」
「……」
鍵を見る。なんの変哲もない鍵束。これにそんな不思議な力が…?
「Pさんの妄想という線は」
「考慮したが思い出の話が通じたことがある。それはない。
 というわけで、だ。この得体の知れない鍵が一体なんなのか、その調査を頼みたい」
「この鍵以外に情報は」
「ない」
「はあ…時間がかかるかも知れませんけど、いいですか?」
「構わん。どうせ放っておいても何も分からないんだ、何かわかったらそれだけで僥倖だ」

…対峙する二人の人影が見える。追う者と追われる者。
赤い髪が月明かりに照らされて浮かび上がる。…あれは私だ。じゃあ私が追っているのは誰?
大きな月を背後に、風にはためくマントと茶色の髪。その顔は逆光になって見えない。
彼女は私に何か語りかけると、軽い身のこなしで屋根から屋根へと飛び移っていく。
私はそれを懸命に追うけれど、追いつくどころか引き離されていき、やがて彼女を見失ってしまう…



部屋に響いた金属音で我に返った。足元には鍵が転がっている。
息を吐きながら、ゆっくりとした動作でそれを拾い上げる。
見たことのない思い出を見ると言うから、子供の頃の記憶でも見るだろうと思っていたが違った。
妄想と笑い飛ばすにはリアリティがありすぎた。髪を撫でていく夜風の感覚さえはっきりと思い出せる。
この件は深入りしてはいけないような気がする…。