安斎都の探偵ファイル ―雪に閉ざされた孤島のペンションで消えたPの足取りを追え・後編―

//ここからあらすじ

「Pさんの部屋へ遊びにやってきた私、安斎都。しかしPさんは不在で、代わりに残されていたのはログイン画面のままのノートPCと一枚のメモでした」

都へ
7777 444 4 66
66 666 22 555
777 33 444 4
444 3 33 66

「これは明らかにPさんから私に向けた挑戦状!この暗号を解いてみせろと、そういうことに違いありません!名探偵・安斎都の華麗な推理、とくとご覧あれ!」

//ここまであらすじ


「さてと、あいつはどうしてる?」
「無事食いついたようです。お手並み拝見ですね」
「にしてもあいつ本当に断り無しに人の部屋入るんだな…他にもっと誘導が必要だと思ったが…」
「都ちゃんは好奇心の塊みたいな子ですから」

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「同じ数字が複数並ぶ…となれば答えは簡単」
懐から携帯電話を取り出し、メモ帳を立ち上げる。
「この数字をそのまま携帯電話で入力すれば…っと」

めつたひ
ひふきぬ
むしつた
つさしひ

「…なにこれ」

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「いきなり頭を抱え始めたぞあいつ」
「……」
「念の為確認するが、都で解けるくらいの暗号なんだよなあれ」
「解ける、と私は信じています」
「ふむ…なら俺も信じるしかないか、にしても本当にあいつ大丈夫なのか」

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「んー…」
ひらがなに変換した暗号を見つめる。これをもう一度変換する?それとも既に間違っている?
もう一度変換するにも何かがおかしい。何かが足りてない感じが――
「…あ」
ふと気付いた。「あ」行と「お」の段の文字が一つもない。
元の暗号の数字を確認する。2から始まってそれぞれのキーを1-3回、稀に4回の入力。
「なるほど、これはつまり」

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「そう、ひらがなにではなくアルファベットに変換する。すると出てくるのは――」

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SIGN
NOBL
REIG
IDEN

「サイン…ノベル…ノーベル…?レイグ?アイデン…?」
4つのアルファベットからなる4つの単語。
ひらがなではなくこちらが正しいという感覚がある。意味の分からないめつたひより単語として成立しているSIGNの方が信用できる。
「おそらくこれではまだ不完全…これを更にどうにかする…?」

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「…進んだようだな」
「はい」
「お次はアルファベット…SIGNと普通に読めるあたりから英語に関するものだと推測するが、あいつの英語力俺より悪いぞ?」
「都ちゃんなら大丈夫ですよ、きっと」
「その自信はどこから来るんだ…」
「Pさんが分からなくても、都ちゃんだから分かる英語もある。だからわざわざ『都へ』なんて名指ししてもらったんですよ」
「俺が分からなくて都が分かる英語…ねえ…」

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「さいん…のべる…れいぐ…あいでん…」
ヒントでもと携帯からグーグル検索。結果は惨敗。まったくもって意味不明。
「もうちょっと真面目に英語勉強しておけば良かったかも…」
とはいえ、諦めるのは早い。
「他の人宛てならいざ知らず、わざわざ私宛てだし、Pさんは私の英語力を知ってるはず。なら解けないものを出したりは…しない…はず…」
希望的観測。甘えとも言う。
「さいん…のべる…れいぐ…あいでん…」
呪文のように繰り返す。単語が4つ、さいん、のべる、れいぐ、あいでん――
「ん…?4つ…さいん…?4つ…サイン…」
何かが引っかかる。どこかで見たか聞いたかしたような響き。
「4つ…サイン…合図…署名…4つ…署名…!」
コナン・ドイルの著したシャーロック・ホームズを主人公とするシリーズの長編2作目。4つの署名。
「これらの単語が意味するのは、ホームズの関わった事件…!!」

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「そうそう、Pさん知ってますか?シャーロッキアンの間では、アルファベット4文字でどの話なのか通じるそうですよ」
「それが『都だから分かる英語』か。そりゃ俺には分からんわ」
「ここまでくればもう見守らなくても大丈夫だと思います。準備しましょう」
「おう」

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SIGN=The sign of four。4つの署名。
NOBL=The adventure of noble bachelor。独身貴族。
REIG=The reigate squires。ライゲートの地主。
IDEN=A case of identity。花婿失踪事件。
「指定されてるのは事件名だけ、ということは変換する方法はそんなに多くはないはず…」ぽちぽち(携帯電話を操作する音)
「発表された順番は2番目、12番目、21番目、5番目…つまり」
立ち上がりノートPCの前へ。パスワードを要求するログイン画面。ゆっくりとキーボードに手を伸ばし、
「答えは…『BLUE』!」ッターン
ログイン認証が終わり、無事にPCが作動する。
「これだけかっこつけて間違ってたらもうどうしようかと…」
少しして自動で立ち上がったのは一枚の画像データ。
「このペンションの地図…?それにこの部屋から他の部屋へ矢印…」
移動しろということだろうか。というかそれ以外考えられない。一応メモを取って、Pの部屋を後にする。
指定された部屋はさほど離れておらず、大して時間は掛からなかった。
ドアノブを握る。この部屋の中に何が待っているのか。期待感と不安感を唾と一緒に飲み込み、意を決してドアを開くと――


「「メリークリスマース!!!」」
パーン!パパーン!
「ひゃーっ銃声だーっ!?」
「おいここは日本だぞ落ち着け。というかお前本物の銃声聞いたことあるのか」
聞き慣れた声。咄嗟に伏せていた身を起こせば見知った顔。
「Pさん…と頼子さん!来てたんですか!?」
「ふふ、こんばんは都ちゃん」
「ということはあの暗号も頼子さんの仕業ですね!?どおりでPさんにしては出来過ぎてると思った!」
「お前の中で俺はどういうイメージなんだ」
「私はただお手伝いしただけだから…」
「まあいい、こっちも面白いものを見せてもらったからな」
部屋の奥の方へ視線を移す。一台のモニター。そこに映っているのはどこかの部屋で、
「あーっ、これさっきまで私がいた部屋じゃないですか!盗撮とか最低ですよ!」
「うん、ちょっとお前あの部屋誰の部屋だったか思い出そうか」
「まあまあ、二人とも。ほら都ちゃん、こっちこっち」
頼子さんの手招きに応じて、今度はそちらへ目をやる。
「ケーキ!ケーキじゃないですか!」
「まあなんだ、今回の仕事はお前がやたらはしゃいでたからな」
Pさんが少し照れくさそうにしながら続ける。
「どうせならこういうサプライズでもどうかと思ってな、頼子に相談したんだよ」
「見事暗号を解いた名探偵さんに、私からのささやかなプレセント。…気に入ってもらえたかしら?」
「もちろんですよ!さあさあ、早くみんなでケーキを食べましょう!」
「ふふふ、慌てなくてもケーキは逃げませんよ」
「ああ、そう言えば頼子に一つ聞きたかったんだが」
「なんでしょうか?」
「どうしてパスワードは『BLUE』だったんだ?クリスマスなら『WHITE』とかの方が良かったんじゃないのか」
「それはですね…」
「クリスマスだから、ですよね!」
「そう、クリスマスだから、ですよ」
「???」